1月17日|『水木しげる漫画大全集』を読む日々 vol.012

 「ギャグ」といえばまず星野源の曲が思い浮かぶ。シングル曲だが病気の影響で星野源が編曲できず、アルバムには収められていない。幻というほどではないけれど、いざ聴こうとすると少し骨が折れる。

 最近どこかで「ギャグ」について読んだなと思ったら、前回名前を出した小林信彦氏の『1960年代日記』だった。1961年8月25日、NHK『夢であいましょう』の「ギャグ特集」の稽古をした日に、注として「〈ギャグ〉というコトバが一般に知られていなかった時代である」と書かれている(*1)

 同じことは『おかしな男 渥美清』にも記述があり、「信じられないかも知れないが、当時の大衆の多くは〈ギャグ〉という言葉を知らなかった。〈ギャグ〉は専門用語であり、映画界かテレビ界の一部でしか使われていなかった」そうである(*2)。ちなみにこの放送で小林信彦は渥美清とはじめて対面している。

 僕は『おかしな男 渥美清』で小林氏の本をはじめて読んだが、とてもいい本だった。『1960年代日記』は自分でも日記をやるようになってから読んだ。日記本の筆致の一つの理想を挙げよと言われたら、僕はこの本を挙げる。

 星野源は、病気(くも膜下出血)治療後、「Crazy Crazy」というシングルを発表する。クレージー・キャッツが念頭に置かれた、ライブでもとりわけ盛り上がる曲だ。僕もときどき無性に聴きたくなることがある。

 先日購入した『定本 日本の喜劇人』は、小林信彦の過去の喜劇人に関する書籍、あるいは書籍化されていない文章を収録した本だが、そこにはクレージー・キャッツ、また植木等個人についての評論が収められている。こちらもいまから読むのが楽しみだ。



 『水木しげる漫画大全集 002|貸本漫画集2 飛だせ! ピョン助 他』。兎月書房から出た水木しげるのギャグ漫画と、ほかミステリ物が収められている。

 水木漫画はユーモアに溢れるが、ギャグが主題の漫画は珍しいようで、しかも著作権の問題でいくつかは復刻もされたことのない「幻」の作品だった。

 著作権の問題とは、つまりワーナー・ブラザースのウサギ(バッグス・バニー)や、トムとジェリーなどのキャラクターがそのままの造形で登場しているということだ。キャラクターの名前はオリジナルのものになっているのだが(バッグス・バニーが「ピョン助」など)、いまとなってはそっちの方がまずい。

 全集を刊行にするにあたり、正式にワーナーに使用許可をもらったことで、ついにこのドタバタギャグ漫画を誰でも読むことができるようになった。


 ここのところ日記本第4巻の編集作業を進めている。8月から10月の日々の記録で、この時期の終盤は日記本第3巻(『ここが日々なら』)の編集作業をしていた。

 日記本第3巻には、恥ずかしながら奥付に誤字がある。早い話が、表紙と奥付でタイトルが異なっている。気がついたときには冷や汗が出た(表紙の次に奥付を確認したので、本が届いた喜びと興奮から一転して頭を抱える事態になった)。

 『飛だせ! ピョン助』は、「飛だせ」であって「飛び出せ」でも「飛びだせ」でもない。『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』も間違いやすいが、「飛だせ」はいまの感覚ではなかなかハードルが高い。

 ところが、カバーは「飛だせ! ピョン助」なのだけれど、扉絵では「とび出せ! ピョン助」で、目次では「とびだせピョン助」になっている。「ムチャクチャ」というよりは、「おおらか」という言葉を使いたい。そんなことは大したことじゃないという、60年前の声が聞こえてきそうな気がする。

 いや、別に自分の奥付の誤字を肯定するわけではないのだけれど。



*1:『1960年代日記』(小林信彦/ちくま文庫/1990)p.66

*2:『おかしな男 渥美清』(小林信彦/ちくま文庫/2016)p.18



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【通巻002|貸本漫画集2 飛だせ! ピョン助 他】

・『飛だせ! ピョン助』兎月書房1958

・『ブル探偵長』兎月出版1958

・「カラス氏とピョン助」(『笑 第一集 漫画王国』所収)兎月書房1958

・『マメ博士の冒険』兎月書房1958

・『お笑いチーム』兎月書房1958

・「プラスチックボーイ」(『冒険活劇 鉄人』第4号所収)エンゼル文庫1959 ※東眞一郎名義

・「HOUSE of MYSTERY 壁」(『顔 別冊 怪奇スリラー』所収)エンゼル文庫1959 ※東眞一郎名義

・「おゝミステイク」(『推理』第4号所収)中村書店1959 ※東真一郎名義