2月16日|『水木しげる漫画大全集』を読む日々 vol.026

 自転車のロードレースを見ていたら、時折、選手がハンドルから手を離して走っているのを見ることがある。彼らはたいていのことは自転車に乗りながらこなしてしまう。上着の脱ぎ着、グラスでの乾杯、肩を組んでの記念撮影、時にはトイレでさえ。

 水木しげるも自転車にはよく乗っていたようで、自転車に乗りながら漫画のアイデアが浮かぶこともあったようだ。

 僕には自転車選手や水木しげるほどのバランス力はないようで、自転車に乗っているときには〈自転車の乗ること〉しかできない。景色の移り変わりを、脳で処理することなく〈感じる〉ことぐらいしかできない。


 昨年秋より、自転車に乗る機会が増えて、若干ではあるが日常の行動範囲が広がった。行こうと思えば行けるが歩くにはちょっと遠い、と感じるところでも、自転車ならわりに気楽に行くことができる。

 通ったことのない道を通るのが好きで、この道を行ったらどこに行けるのだろうかと思いながら、歩いたり自転車に乗ったりすることがある。道は思わぬところにつながっていたり、あるいは思わぬところに連れて行かれたりする。それが楽しい。

 わが家の南北には崖があって。崖の上と下は、地図上ではわずかな距離でも、実際に見える景色は全然違う。これも実際にその場に行かないとわからないことだ。そういうことを知る、というより〈感じる〉ことができたときも嬉しい。

 とはいえ、この趣味、あまりやりすぎると、進んだ先の道がいきなり未舗装になって、いちごをカゴに入れたままオフロードを走るハメにもなったりもするから、時と場合を選ぶ必要がある。いちごは繊細なのだ。