3月2日|『水木しげる漫画大全集』を読む日々 vol.033

 夢の中で、いま夢を見ているとわかる瞬間があるように、自分のまわりの世界が変わった瞬間に、そのことを自覚することがある。

 僕の場合、それは一昨年の3月2日のことだった。その日、僕は四谷でたい焼きを買う長い列に並んでいた。一週間前は東京でも吹雪くような大荒れの天気だったが、その日は風もなく、気温も高い、春の陽気に包まれていた。

 長い長い列(買うまでに一時間半かかった)に並びながら、本を読んでいた。細い路地、頭上には太陽があった。読んでいたのは三田誠広『小説を深く読む ぼくの読書遍歴』。三田さんの本を読むのは、このとき久しぶりだったような気がする。三田ファンなら、別の著作で読んだことのあるエピソードも多く、それがとても心地よかった。

 その一時間半の時間を経て、僕の世界は変わったことを感じた。何が変わったのかはわからなかったし、なぜ変わったのかもわからなかった。でも、何かが変わったということが、はっきりとわかった。変わる未来を確信した、と言い換えてもいいかもしれない。そして実際、その後の僕の生活は、精神の置きどころは、実に健やかな変化を見せた。

 こんなにはっきりとした予感を抱くことは滅多にない。でも、ごく稀に、そういうことがある。

 これまでで最も希望にあふれた予感を持ったのは、2013年のある秋の日のことだった。僕はその日、一人の女性に出会った。彼女を一目見た瞬間、この人と結婚するだろうなと思った。彼女もまた、同じことを思ったという。

 それから数年の時が流れ、僕はこの女性と一緒に、たい焼きを待っていた。