3月3日|『水木しげる漫画大全集』を読む日々 vol.034

 年に数回、都心方面へ行かなければいけない用事がある。早い話が、都内の大病院での定期検査だ。

 都心方面へ向かうときは、いくつかの用事をいっぺんに済ませることにしている。個別に済ませるには、わが家は東京から遠いのだ。

 遠く感じるのは電車に乗るのが億劫だからで、逆に、一度乗ってしまえば、乗り換えがいくら加わってもかまわない。以前、高円寺の用事と新橋の用事をいっぺんに片付けたとき、新橋の人に「新橋は高円寺のついでに来るところではない」と呆れられたが、そんなのは序の口だ。元来、乗り継ぎを考えるのが好きなので(時刻表ファンなのです)、目的地は多ければ多いほどよいとさえいえる。

 ひとまず駒込へ向かった。BOOKS青いカバへ行きたかったのと、先日この日記で書いた〈山手線の外側の文京区〉を見に行くためだ。どうやら染井通り付近の線路(掘割=ガケ下にある)への斜面の一部がそうらしく、建物はなく草が茂っていた。染井というのはあのソメイヨシノの由来になっている地名で、それを知れたのは思わぬ収穫だった。

 線路を挟んで、北(山手線の外)が豊島区、南(山手線の内)が文京区だが、豊島区側の住所は「駒込」、文京区側の住所は「本駒込」。

 かつて「両国」というのは隅田川を挟んだ両岸に存在した地名だったことを、小林信彦氏は著作で繰り返し述べている。氏は、自身が「日本橋区両国」の生まれであることを、しきりに強調する。現在の中央区東日本橋だ。同じ「両国」が川向うと川のこちらにあるのはたしかにややこしいが、東日本橋というのは、氏の言うように、即物的でつまらない名前だと感じる(こんなことになったのは、もちろん〈住居表示〉の結果)。


 それからメインの用事やついでの用事を終わらせると、時刻はすでに20時近い。最後にいたのがオフィス街だったのだけれど、わりに人は多い。うんざりしながら駅へ向かうと、なぜか電車はガラガラ。たしかに2019年以前と比べれば、同じ時間の同じ街でも人の数は全然違うが、もう少し電車が混みそうな人出ではある。もちろん空いているに越したことはないけれど、なんだか狐につままれたような気持ちになる。

 移動と待ち時間が多くて、300ページ超の文庫本を最後まで読んでしまった。あらためて、鉄道は、特に座ることができれば、読書が進む場所なのだと感じた。空いた鉄道に、本を読むために(そして時々うたた寝をするために)長い時間乗る機会を作りたいが、いつになるだろうか。