3月4日|『水木しげる漫画大全集』を読む日々 vol.035

 今月も「『ダイの大冒険』を読む」のコーナーがはじまりました。

 今月出たのは、新装版13巻~15巻。バラン参戦からバーンパレス浮上と緒戦敗北まで。『ダイの大冒険』の中盤以降を支えたキャラが、チウ+獣王遊撃隊とハドラー親衛騎団だと思うが、どちらも今回は見せ場がある。

 個人的なことを書くと、今回の13巻の範囲は、小学生当時に繰り返し読んだところで、とても懐かしい気持ちになった。持っている漫画が多くなかっただけに、同じ本を繰り返し読むしかなく、それだけ記憶に深く刻まれている。先月、「正確な言い回しは不明」として書いたハドラーのセリフ「早く始めよう。俺には時間がない」は、正確には「…さあ早くはじめよう オレには時間が無い」だった。この記憶の確かさなどは、幼き日に繰り返し読み込んだ結果だといえる。

 逆に、この先を実際に読むまでには時間が空いたため、記憶からぽっかりと抜け落ちている部分があって、15巻のエピソードはあまり覚えていないものが多かった。〈絶望のセリフ〉として名高い「今のはメラゾーマでは無い…メラだ…」はここで出たのかと新鮮な気分になったぐらいだ。


 『ダイの大冒険』よりももっと以前、まだほとんど文字が読めなかった頃に、親が読んでくれた絵本のことを、何冊かまだ覚えている。それは例えば『ざっくりぶうぶうがたがたごろろ』であり、例えば『ながいながいすべりだい』であり、『ミッキーのジャックと豆の木』であり、『とうさんまいご』であり、『11ぴきのねことへんなねこ』であり、タイトルを忘れてしまったいくつもの絵本である(驚くべきことにその多くはまだ我が実家の本棚に並べられている)。

 繰り返し繰り返し、飽きもせずに読んでもらい、飽きもせずに(飽きていたかもしれないが)読んでくれた結果、親の読み語り方や、息遣いまでも、覚えている部分がある。いま、自分が同じ絵本を読み語るとするなら、当時の両親と同じ読み方をするのではないかとさえ思う。

 〈それしかなかった〉というのは強いもので、意識が四散してしまう現在では、あんなに濃密な本との接し方はできない。もしやるとするならば、相当な覚悟が必要だろう。

 その意味で、あれほど幸せな読書を、僕はもう経験することはないのかもしれない。

 もちろん、意識をあちこちに飛ばしながらの読書も、楽しいことには違いがない。けれども、もっと没頭したいと思うことも多々あり、あらゆることが〈うるさすぎる〉と感じる日々の騒々しさを、なんとか少しでも軽減するのが、今年のテーマであるとも思っている。