3月9日|『水木しげる漫画大全集』を読む日々 vol.037

 秋の終わりにムクドリの大群がやってきて、夕方になると電線に並んで大合唱、というか〈がなり合い〉をはじめる。日中はどこにいるのかわからないが、夕暮れになるまで姿は見えない。あたりが暗くなりはじめた頃、どこからか集結する。大音量の鳴き声だけならまだしも、〈落し物〉があるのは困る。声は消えるが、糞は残る。

 渡り鳥なので、季節が暖かくなるといつの間にかいなくなる。

 昨日までは声が聞こえていたのに、今日は夕方になっても外が静かだ。そろそろ旅立ちの時なのかもしれない。と外に出て空を見上げると、ムクドリたちが空中で旋回していた。

 どうもムクドリがねぐらに戻るときの習性のようで、輪を描き、徐々に数を増やしながら、時折羽音を立て、ねぐらの木に入る瞬間をうかがっている。羽音は一羽だけでなく、一斉に鳴らすので、地上にいても迫力がある。バサバサではなく、ファサファサという空気を叩く音に、格好良ささえ感じる。

 ぐるぐると旋回を続け、何が合図なのかはわからないが、あるタイミングで、ねぐらの木へと一斉に突進した。これからまた、木の中での大合唱がはじまる。

 ムクドリが来ると、一つの季節のはじまりを感じ、ムクドリが去ると、一つの季節の終わりを知る。

 けれども、いつも気がついたら電線の合唱会が開幕し、気がついたらパーティーは幕を閉じている。

 今シーズンも、開幕日を逃してしまった。幕が閉じるその日のことは、今年こそ記録することができるだろうか。