5月4日|『水木しげる漫画大全集』を読む日々 vol.047

 予土線に「半家」という駅がある。「ハゲ」と読む難読かつ珍しい駅名で、一人旅をしていた頃に突然「ハゲ」というアナウンスがあったので驚いたが、乗り合わせた乗客たちがその読みで盛り上がって駅に着くやホームに降りて賑やかに駅名標を写真で撮る様子を見て、なんだか気持ちが醒めてしまったことを覚えている。穏やかに晴れた、ある春の日の午後のことだった。

 一人旅をする機会はもうなかなかないだろう。それどころか、帰省すらも一年以上できていない。「オンライン帰省」というのはただのビデオ通話で、それを「帰省」と称する神経もすごいが、ビデオ通話を「帰省」だと感じられるのであれば、この世には僕の知らない「帰省」が存在することになる。


 久しぶりに美容室で髪を切った。2020年の2月以来だというから、一年以上、自宅で散髪をしていたことになる。髪が多いのもそれはそれで大変なところがあり、定期的に整えておかないと収拾がつかなくなる。都合5~6回、妻に切ってもらったが、ここで一度リセットというわけで、プロに切ってもらうことにした。

 マスクをして髪を切られるのは初めてだったが、細かい髪の毛が隙間から入り込んでチクチクする。「メンズは特にそうですよね」と美容師に言われたが、その美容師が担当になるのは初めてで、たしか前回までは髪を切る人ではなかったと思う(美容室内でのそういう役割というか階級がどうなっているのかは知らないが)。このこともわずか一年ちょっととはいえ、時の経過を感じた出来事だった。


 髪を切った翌日にうどんを打った。香川に育ったからには自分でもうどんを打てるようになりたいものだと、前から打ってみたいと思っていたのだ。特別習ったわけでもなく、特別うどんを打つための器具を持っているわけでもないが、なんとか麺のような形にはなった。ただし茹でたらほとんどは短く切れてしまった。

 香川では半夏生の日にうどんを食べる(かつて食べていた)という習慣を耳にすることがある。田植えが終わったときに慰労のために家族や地域の人と誰かの家で打ったうどんを食べていたようで、地域や家業(農業をしていたかどうか)によりけりの風習ではあるが、自分でうどんを打てる人が少なからずいたということの裏返しでもあると思う。僕の感覚だが、僕の祖父母の世代ぐらいまではうどんを打てる人がそれなりにいたように思う。あるいは打てても不思議ではないと思わせる雰囲気をまとった人も多かった。

 運のいいことにうどんが好物なので、改良を重ねて、寄り合いで出せるぐらいのレベルまでは打てるようになりたい。まずは長い麺棒を用意しよう。