6月14日|『水木しげる漫画大全集』を読む日々 vol.056

 ちびりちびりと読み進めていた『決定版 日本の喜劇人』(小林信彦/新潮社)を読み終えた。ちびりちびりとなったのは、就寝前ぐらいしか本を読む時間を取れなかったからだが、ここしばらくの寝る前の楽しみになってよかった。

 昨年の年末にこの『決定版』の底本になった『定本 日本の喜劇人』を取り寄せてもらい、それから半年もしないうちに『決定版』が出たと知ったときには、間の悪いことをしたかもしれないと思ったが、『定本』のすべてが『決定版』に収められたわけではないと購入後に知ったし、なによりいい本はいくら手元にあってもいい、それがバージョン違いならなおさらだと、あらためて感じた。まあ、そう感じるのが、ファンというものなのかもしれない。

 戦前・戦中の古川緑波(ロッパ)にはじまり、榎本健一(エノケン)、森繁久彌、トニー谷、由利徹、クレイジー・キャッツ、『てなもんや三度笠』関係者、伊東四朗、萩本欽一、そして藤山寛美、あるいは青島幸男、宍戸錠、渥美清、小沢昭一、藤田まこと等等々、いったいどれだけの名前が出たのかと驚くばかりだが、その喜劇人たちについて詳述され、さらに当時の空気さえ感じさせるような文章に、繰り返しになるけれど、僕は毎晩心躍らせながらページをめくった。


 個人的なことをいえば、著者の小林信彦さんは僕の祖母と同じ年の生まれだ。その点も僕にとって親しみやすいところで、目の前の祖母の姿や話を通して小林さんの書くものを読むこともできるし、小林さんの書くものを通して目の前の祖母の姿を見たり話を聞いたりすることもできる。

 小林さんと僕の祖母はまったく違う人生を歩んできた。おそらく『日本の喜劇人』に出てくる大半の喜劇人について、祖母は名前さえ知らないだろう。舞台はもちろん、映画を観たことも、テレビ番組を観たことも、ほとんどないに違いない。それでもなお、この喜劇人が生きた時代、あるいは小林さん(時に少年であり、時に編集者であり、時にコラムニストであり、時に放送作家であり、時に小説家であり……)がその喜劇人を目撃した時代の、また別の場所で祖母も確かに暮らしていたと思うと、僕はなんだか胸が熱くなる。もしかしたらどこかでその二つの世界が交わっていたのかもしれないと、思いを馳せてしまう。


 そんな個人的な思い入れは置いておくにしても、歴史の目撃者であり、ある場面では当事者だった著者の筆致の迫力は、圧倒的なもので、とにかくその渦に巻き込まれた感覚を味わうだけでも、この本を読む価値はある。50年前の連載が元になった本を、いま新装版で読めるのだから、ありがたいと思います。