9月20日|『水木しげる漫画大全集』を読む日々 vol.068「いつか買う予定の本」

 よく行く本屋には、常に「いつか買う予定の本」をキープしている。

──何のために?

 と思われたかもしれない。

──いつか買うのなら、すぐに買ってしまってもいいのではないか。もしかしたら売れてなくなってしまうかもしれないし、逆に売れなさすぎて返品されてしまうかもしれないじゃないか。

 そう思われたかもしれない。

 実のところ、その通りなのだ。

 でも僕は、"なぜだか"そんな本をいつだってキープしている。

 なぜなのだろう。


 「いつか買う予定の本」が本屋にあるというのは、しあわせなことだ。

 本屋に入り、棚を眺め、新しく入った本を確認し、この前まではあることに気づいていなかった本を認識し、この前もあった本の姿を見る。

 この本、まだあるな、と心の中で思う。ときによっては指差確認をする。

 もちろん、買おうと思えば今日にだって買うことはできる。しかし、その「いつか」が訪れるまでは、買わない。


 「いつか」がいつ来るのか、それはわからない。

 でも、「今日がそのときだ」というのはわかる。

 だから、「そのときだ」と気づく「今日」までは、その本は、棚に残したままにする。


 「いつか買う予定の本」は、僕の意識を少しだけ占領する。

 つまり、その本を置いてある本屋が、僕の中でいつも少しだけ意識されているということでもある。

 そういう本がある限り、僕はその本屋のことを忘れないだろう。その本屋に通うことをやめないだろう。


 「いつか買う予定の本」は、購入の予約をしているわけではない。「売約済み」の札が本にかけられているわけでもない。いつか、店から消えてしまっていることだってあるかもしれない。

 もちろん、それは残念なことだ。

 でも、もしそれが「売れたから消えた」のであれば、いずれまた棚に帰ってくることを期待する。もし「売れないから返した」のであれば、あきらめて、別の店で買おう。

 理由がどちらなのかを知るために、僕はまたその店を訪ねなければならない。

 「いつか買う予定の本」は、そんな、おまもりのような存在であるのかもしれない。そんな、鎖のような存在であるのかもしれない。