11月2日|vol.069「10月が終わり」

 10月末。

 抱えていた仕事のうちの大物の一つがようやく終わった。無事に終わり一安心している。

 有限の時間の中で、故障を備えた肉体で、怠惰な精神とともに仕事をするから、なかなか物事は進まない。

 まあ、忙しい忙しいと当人は孤軍奮闘している気でいるが、まわりから見たら一人で滑稽な踊りを踊っているだけなのかもしれない。


 「孤」。

 6月末をもってツイッターを見なくなり、10月末で4ヶ月が経った(告知にだけ使っている)。

 それまで好むと好まざるとにかかわらず届いていた情報が届かなくなって、いっとき、「孤」の感覚が増した。

 でも、ずいぶんとすっきりしてすがすがしいというのが本音だ。

 いつのまにか「孤」の感覚もほとんど消えた。人間関係がなくなったわけではないので、当たり前といえば当たり前なのだけれど。


 最近の話。

 最近、『サザエさん』を読んでいる。朝日新聞出版が出している姉妹社版の復刻版。これが本当におもしろい。

 「古いからおもしろい」ということもある。『サザエさん』は昭和21年から連載がはじまった。敗戦後の占領下のことだ。新聞の四コマ漫画だけあって、時事的な内容や当時の風俗の描写も多く、その「歴史的描写」を見るだけでおもしろい。いわば「歴史的な興味深さ」といえるだろう。

 一方で、「古いから」という理由を抜きにしても、今でも十分に通用するおもしろさがある。僕は一巻あたり数回は声を出して笑うが、声を出して笑うことと時事的なおもしろさはほとんど関係がない。こちらは「ユーモア」から来るおもしろさ。

 ちなみにこの復刻版には注釈がついていて、時代的に説明をしておかないとわからない描写について説明がある。これもけっこうおもしろい。


 漫画だけでなく、Amazonのprime videoで70年代中盤の『サザエさん』のアニメも見ていた。こちらもかなりのおもしろさで、ずいぶん盛り上がった。

 たぶん当時としてはとりたてて不思議ではなかったのだろうけれど、今ではかなり「攻めている」内容に見える。新鮮なのが登場人物がスパスパ煙草を吸っていることで、マスオさんなんかは寝る前に布団で一服、起き抜けに布団で一服、なんていう具合だ。サザエさんがマスオさんの食事にこっそりと精神安定剤を混ぜるという話もあってぶったまげてしまった。

 原作を読んでいると、アニメはかなり原作のエピソードを取り入れているんだということもわかる。ちょうど原作を読み進めているので、「これ漫画で見たやつだ」と、さながら進研ゼミの漫画のような気分に浸れる。ちなみに精神安定剤の話も原作にある。


 先日、白土三平さんが亡くなった。

 水木しげるサンを読むようになって、昔(主に50年代・60年代)の漫画や、漫画史というものに興味を持ち、関係する本を読んでいる。

 大雑把にいえば、その軸の一つが「貸本・劇画・ガロ」で、水木しげるはこの軸の中にいる(別の軸としてはは「手塚・トキワ荘」などがある)。水木しげるは草創期の『ガロ』の中心メンバーだったが、そもそも『ガロ』は白土三平(『カムイ伝』)のための雑誌という側面があったので、水木しげるやその周辺について読んでいると白土三平への言及にも自然と多く触れることになる。

 『カムイ伝』を読み返そうか、『忍者武芸帳』も読んでみたい、などと思っていたところでの訃報だったので、ずいぶんとショックを受けた。


 手が届きそうで届かない、でも届くのではないかと錯覚したくなる、60年代や70年代。今に連綿と続くわずかばかり前の時代のようであり、隔絶された歴史の絵巻物のようでもあるその時代のエネルギーを、一度感じてみたかった。遅く生まれた人間の過剰な羨望だとしても、それでも。