高校生クイズの思い出と「写メ」の未来

 ふと、高校生クイズのことを思い出した。思い出したといっても、きちんと見たことのある番組ではない。まだやっているのかも知らない。高校生クイズと鳥人間コンテストとアメリカ横断ウルトラクイズは、ついにきちんと見たことのない番組になってしまった。


 高校2年生のときに、高校生クイズの四国予選に参加した。何を思い出したかというと、そのことを思い出したのだ。

 会場は高松駅の裏側。当時はサンポートが部分的にできた程度で、高松駅の裏には空き地がたくさんあった。よく晴れた、とても暑い日だった。

 3人1組のチームで、我々は2問目に早くも敗退してしまった。「童謡『桃太郎』には、『おじいさん おばあさん』という歌詞が出てくる。マルかバツか」という問題だった。我々は「出てくる」を選んだが、正解は「出てこない」だった。

 僕は今でも『桃太郎』を口ずさむたび(なぜかよく口ずさんでしまうのだ)、「この歌には『おじいさん おばあさん』という歌詞は出てこないのだな」と心の中で思う。


 僕の同級生では、高校入学とともに携帯電話を買ってもらったという人が多かった。高校生が携帯電話を持ち始めた時期だったのだ(僕は高校2年生に上がるときに自分の携帯電話を持った)。

 この日の予選では、1問目が終わった後に番組ディレクター(だか誰だか)がステージに上がって、「携帯電話を使って調べている人がいますが、そういうことはやめましょうよ」と、ひどくうんざりしたようにアナウンスした。当時は今のように携帯からインターネットに接続して検索して調べるということが簡単ではなかったから、電話をして問い合わせていたのだろうと思う。しかし、問題が出てから解答までの短い時間で有効な答えを入手できたかというと、疑問ではある。

 我々は、敗者復活戦があるのではないかという期待と、スポンサーが何かをくれるのではないかという下心と(ブースがあった)、他に何もやることがなかったという事情で、敗退した後にも会場に残っていた。

 結局、敗者復活戦は行われず、スポンサーは何もくれなかった。あくまで日差しは強く、梅雨の終わりが見えたことを、僕は感じていた。


 ひと通りクイズが終わった後、その大会のテーマ曲を歌っていたGRAND COLOR STONEというバンドが、テーマ曲を歌った。『形なきもの』という曲だった。ギターのいないピアノロックバンドで、ちょっとスパイスの足りないような、しかしそれだけによく響くピアノの音が印象に残るライブだった。

 ライブが終わってメンバーがステージから降りてきたので、僕はクイズ前にもらった番組のうちわにサインを書いてもらい、携帯でメンバーの写真を撮った。

 当時、カメラ付き携帯は発売からそこまで日が経っていなかった。僕が使っていたのはA3012CAというカシオ製の機種で、30万画素のカメラが搭載された、auで最初に出たカメラ付き携帯電話だった。


 携帯で写真を撮ることを「写メ」ということがある。スマートフォンの登場以前の携帯電話を知っている人なら、聞き覚えがある言葉だと思うし、今でも使っている人がいるかもしれない。

 「写メ」というのは「写メール」の略で、本来は「携帯電話で撮った写真をメールで送付する」という意味だ。カメラ付き携帯電話の普及とともに言葉として一般化した。ちなみに昔は異なるキャリア間では写真を添付したメールのやりとりができず、送付にはちょっとした工夫が必要だった。「写メ」も面倒だった時期があったのだ。

 それがいつの間にか「携帯電話で写真を撮ること自体」を「写メ」と呼ぶ人が出てきた。この使われ方がされ始めたとき、僕は「『メ』って何だよ」と思ったが、もうほとんどの人が携帯電話で撮った写真を「メール」でやりとりすることがなくなった今でも、この「写メ」という言葉だけはしぶとく現役で存在している。

 遠い将来、写真を撮るという概念や、メール送受信というコミュニケーションがなくなり、視覚情報をそのままアーカイブし、それが自動的にネットワーク上で共有されるような未来が訪れたとしても、「写メ」という言葉だけは全人類がその由来を忘れても残っているような気がして、ゾッとするような気分になることがある。

 そんなことありえないと思われるかもしれないが、もはや「チン」と鳴る電子レンジなんてほとんど見かけることがないのに、僕たちがレンジで温めることを何の疑問もなく「チンする」というように、「写メ」だって遠い未来にまで引き継がれる言葉かもしれないのだ(「チン」って鳴るのって今だとどちらかというと「オーブントースター」ですよね)。

 ところでカメラ付き携帯電話の元祖はシャープ製。「写メール」という言葉を生んだのもシャープ。そして意外なことに電子レンジの出来上がり音を「チン」といわせたのもシャープなんだそうです。

 うーん、さすが、目の付けどころが、シャープですね。