自転車レースに夜は更けて

 所用があって香川に帰省をした。実は5月にも帰ったのだけれど、このときは急用のためで香川にいたのは24時間程度だったから弾丸帰省だった。計画的な帰省としては、去年の11月以来だ。それでもいられるのは3泊4日。

 帰省の直前に家の裏山で遭難者が出て、騒ぎになっていたらしい。言い換えると、単なる裏山だと思っていた山が遭難者が出るぐらいの深い山となりうるということだった。そう思って見るといかにも恐ろしい山に見えてくる。でも帰省中に一番怖かったのは、夜に真っ暗な部屋に入った瞬間に防災無線から女性の声が流れてきたことで、思わず叫び声を上げてしまいそうになった。

 帰省の間に4軒のうどん屋に行った。麦香《ばくか》、(飯山の)なかむら、岡、空音《そらね》。平日にもかかわらずうどん屋の駐車場では北九州やら神戸やら岐阜やらのナンバーを見た。まあ、自分だってそれよりも遠いところから行っているから何もいえない。

 父母ヶ浜《ちちぶがはま》にも行った。ここは「寒村の砂浜」という感じだったのが、何年か前に「ウユニ塩湖のような景色が広がる」として注目されて以来、観光客が激増して県内でも有数の観光名所となった場所だ(ちなみに周辺は地元では県内屈指のみかんの産地として知られていた)。地元自治体だか観光協会だかの若い職員がSNSで仕掛けて大当たりしたと聞いた。さすがに三豊の若者、やるときはやるもんだ。

 行った日は平日だったこともあって人の姿がまばらでよかった。「写真映え」という意味ではあいにくの曇りだったけれど、それでも夕方は逆光になり非常に雰囲気のある写真が撮れた。ちょうど干潮に向かう時間帯で潮溜まりがいくつかできていて、夕陽が差し込めば光り輝く写真が撮れそうという気がしたし、それを試みている人たちの姿もあった。妻や姪は裸足になって海に入って気持ちよさそうだった。

 帰省の間はほとんど雨が降らなかった。一方で自宅周辺ではしっかり雨が降ったらしく、不在の間にカラカラになるのではと心配していたベランダの植物たちは元気だったので助かった。もうひぐらしが鳴いていて、そろそろ夏も終わりだなと思ったが、まだ本当に梅雨が明けたのかと思うようなぐずぐずした気候なのだった。


 ツール・ド・フランスが中盤戦から後半戦に入っていて、寝不足が続いている。何しろ毎日深夜1時前後までレースがあるのだ。

 帰省の日は5時半起きだったのでその前夜はきっぱりと諦めて寝ようとも思ったけれど、諦めるのをぐっとこらえて結局見てしまった。そうしたらそのステージが歴史に残る攻防戦(ユンボ波状攻撃からのポガチャル大失速ステージ)になったので、無理をして見てよかったと興奮しながら布団に入った。

 慢性的な寝不足からの前夜の強烈な寝不足、そしていつもとは違う布団での就寝となったことで、帰省中は夕方になると猛烈な睡眠不足感に襲われた。眠いを通り越して目が痛いという感じ。結局解消されないまま自宅に戻ってきて、やれやれやっとゆっくり眠れると思ったが、愚かにもツールの誘惑に負けてその日もまた1時までレースを見てしまった。さすがにゴール後すぐに寝た。翌朝はすっきりと目が覚めた。やっぱり自宅の布団は違うなと思った。