梅干し塩分20%

 少し前にNHK『きょうの料理』に関する取材記事を読んだ。材料は5人分の表示でスタートしたものが1世帯あたりの人数を鑑みて今では2人分に、放送3ヶ月前にテキストを作るために梅や柿や栗など他の季節では収穫できない完全な期間限定モノは1年前に収録をしているなど、短いながらもたいへん興味深い内容だった。『きょうの料理』は今年で放送開始から65周年になるというから、歴史の生き証人のような番組だ。

 時代の変化というところでは、減塩志向の高まりで梅干しの塩分も徐々に減り、来年は5%のレシピを紹介する予定だそうだ。

 かつて60キロの梅を干していたという祖母によると、塩分が10%を切ると梅干しは冷蔵庫で保存しないとカビるだろうということだった。「昔はちゃんと計りはしなかったけど、20%以上の塩で漬けていただろうね」


 梅干しは防腐剤の役割があるという認識が僕にはあるけれど、今ではどうなのだろう。当たり前に冷蔵ケースで売られているから、梅干しと防腐効果が結びつかなくても不思議ではない。

 『美味しんぼ』にもそんな話があった。富井副部長が自分と家族用に作った弁当で悪い条件が重なって梅干しがカビてしまい、家庭崩壊の危機に。カビた理由は低塩分の梅干しだったから、というのが大まかな流れ。なぜ梅干しの塩分を減らすのかという問いに対して、「塩分の取りすぎは健康に良くないという考えが、広くいき渡ったことが理由の一つ。もう一つの理由は梅漬け業務の新製品開拓の企業努力だ」と答える山岡さん。塩漬けした梅から塩を抜き、ついでに酸味なども抜けてしまうので化学調味料で味を整えているという話。「酸っぱいものはイヤという子供っぽい味覚の持ち主が多くなったんです。しかも化学調味料の味にすっかり慣らされて味覚が鈍くなってるから、化学調味料入りの梅の味をうまいと思ったりする」と手厳しい。

 低塩の梅や甘い梅は「梅干しとは別物だけれど、それはそれで一つの奇妙ながら味のある食べ物」という認識が僕にはあるから、僕も味覚が鈍いのだろうし、「企業努力」を受け取っているのだろう。

 ちなみにこれは92年発行の単行本に載っている話。劇中に「ここ20~30年来、梅だけでなく他の漬け物もそうだけど、塩分の高いものは好まれなくなってきた」とセリフがあるので、言い換えるなら、これに従えば半世紀ぐらい前から低塩志向があったらしい(僕の手元にあるのは2001年発行の文庫版なので、もしかしたら年数は原本から書き換えられているかもしれない)。


 去年、初めて縁側で梅を干した。去年は梅の生育がよかったこともあり、大粒な梅が日光で赤く輝く様子はほんとうに美しかった。

 今年は縁側が使えず、先月末からのピーカンを狙ってベランダで干した。自分で梅を並べ、自分で1粒ずつひっくり返すと、一つ一つの梅干しにも愛着が湧いてくる。去年、庭で摘んだキンカンで初めてジャムを作ったときも愛着が湧き、大事に、しかし最後までちゃんと食べきった。手作りというのはいいものだなと思った。

 今度の冬もジャムを作り、来年の夏も梅を干そう。もちろん砂糖はドバドバ、塩分は20%で。こればかり食べるわけではないからね。