『ドキュメント72時間』と、『H2』の季節

 先日『ドキュメント72時間』のスペシャル放送があった。レギュラー放送が始まって今年で10年目ということで(10周年ではない)、それを記念して視聴者投票で過去の放送のベスト10を決めてその回を放送するという内容だった。

 『ドキュメント72時間』は数少ない夫婦で見ているテレビ番組だ。一つの場所で3日間(72時間)取材をし続け、その場所を訪れる人にインタビューをするという番組。それだけといえばそれだけだが、なかなかどうして「見させる」番組だ。今回のベスト10ではいくつか見たことのない回もあったし、どの回も細かいところは忘れている部分があるから、あらためて夏の夜にどっぷり浸かれてよかった。

 僕はこの番組とかなり幸せな出会い方をしていて、たまたま最初にきちんと見た回は秋田港のうどん自販機の回だった。たぶん本放送だったと思う。番組屈指の傑作回というか、僕はその後もこの回を越えるエピソードには出会えていない。言い換えるとそれほど衝撃の回で、最初にこの回を見たおかげで、その後の放送もほぼ欠かさず見るようになった。秋田港の自販機の回は、今回のベスト10でもそれにふさわしい順位だったので安心した。

 名作といえる回は秋田港のうどん自販機の後にも先にもいくつもあって、放送タイトルを見ただけで「ああ、あれね!」と思い出せる回は数多くあるのだけれど、「ベスト1」となると、僕の中ではこの秋田の回1択となる。それほどまでに群を抜いている。この放送が好きだという感性を持った人がそばにいてくれると、僕はうれしい。


 毎年夏になると、『H2』を読む。

 8月になって甲子園が始まるニュースが流れ、なんとなく世の中に「夏休み感」が出てくると、「今年も『H2』の季節だ」とそわそわしてくる。そして耐えきれず文庫本を取り出して一目散に読む。ここ4、5年はその繰り返しだ。

 一昨年のこの時期は毎日夜になると微熱が出て入浴すると下がるという謎の症状があり、そんな中でまさに熱に浮かされるように『H2』を読みきったこともあった。

 あだち充には『H2』の後にも先にも名作漫画があるけれど、どれか一つを選べといわれれば、僕は『H2』を挙げる。すべてのあだち充作品を読んだわけではないけれど、それでも『H2』は頭一つ抜けていて、未読作品を含めてもそれは揺るがないという予感がある。


 お盆休みにいくつかのことをやろうと意気込んでいたが、たいしたことができないまま終わってしまった。妙に眠い日々だった。いくつかの要因が重なってお盆前に9時-23時半というやくざな労働の日々が続いた影響かもしれない。

 今年になって「いくぶん」本が減り、「少し」本が増えた(具体的な数を書くと家庭内不和につながる恐れがあるのであえて数は秘す)。結果として文庫本が以前より増えたので、いくらか整頓をした。ダイソーで220円で売っている化繊張りの鉄骨の四角い箱が文庫本にぴったりで、縦に重ねれば簡易本棚のようにもなる。化繊の手触りがあまり心地よくないし、時々おそろしいほど鉄骨の溶接がテキトーな個体があるので気をつけなければいけないけれども、最近非常に重宝している一品だ。


 できれば休みのうちに本棚の本を動かしたかったのだが、それは一部に終わってしまった。

 本というのは見えていることで発揮する効果がある。残念ながら我が家は本棚がいろんなところに散らばっている上に、容量の問題で前後二段にしているから、普段からよく見える本を見えない本ができている。

 本が動いていないと、空気が停滞してくる。本を動かさないと、本棚が凝り固まったものになってしまう。

 おまけに本は増えていくから、空気を入れ替えるためにも、整頓のためにも、本棚の本というのはできるだけ活発に動かすことが望ましい……のだけれど、まあ、なかなか現実はそう理想通りにはできていない。いつか白紙の状態でまったくイチから本棚を組み立てられたらと思う、思い続ける日々だ。