のぞかずにいられるか

 以前、本のブックマークについてこのブログで書いたことがあります。「ドッグイヤー」や、付箋や、書き込みや、ノートへのメモなどについて触れました。ノートへのメモは現実的にすべての読書で行うことは難しく、他の本を傷めるやり方はイヤだ、何かいい方法はないものか、とそのときは書いたのですが、実は最近になっていい方法を見つけて、実践しています。

 そのやり方というのが、短冊状に切ったコピー用紙をページに挟んでいく、というやり方です。単純といえば単純ですが、少し前まで思いもつきませんでした。ある図書館の複写コーナーで、印刷後のコピー用紙を複写する箇所に挟んで再利用しているのを見て、思いついたものです。

 家に使い道に困っていた大量のA5版のコピー用紙があったので、その点もちょうどよかったです。せっせと紙を切って短冊の山を作りました。

 実際にやってみると、これがかなりいい。貼るわけではないので本を傷めません。薄いのでかなりの枚数を挟んでも本が膨らみません。やろうと思えば短冊自体にメモをすることもできる。願い事を書いて竹に吊るすことだってできます。難点といえば、横になって読むと挟んだページを開いたときに短冊が落ちてくるということぐらいでしょうか。

 短冊しおりのおかげで、読書のやり方がここに来て新しくなりました。


 昨年、急に『サザエさん』にハマりました。ちょうど朝日新聞出版が姉妹社版の復刻をしていた最中で、何度か本屋に通ってすべて揃えました。

 1巻から読んで、時に笑い、時に学び、時に感心し、時に凄みを感じ、時に停滞を感じ、時に唸り、時に考えさせられ、魅了されるままに68巻を読み終えました。1冊あたり30分ぐらいで読めるし、明るい内容なので、寝る前の読書にとてもいい。寝る前に『サザエさん』を読んでいた時期は、布団に行くのが楽しみでした。

 僕が短冊しおりを使い始めた頃、『サザエさん』はほとんど読み終えていたので、『サザエさん』に差さっている短冊はほとんどないのですが、終盤の数冊は頭から白い紙が飛び出しています。はじめて差したのは、こんな話でした(いまさらですが知らない人のために念のため、『サザエさん』は4コマ漫画です)。


1コマ目:家の中を覗き穴から覗くあやしい男の姿

2コマ目:別の男が通りかかり、「あ!エッチ オレにものぞかせろ」

3コマ目:最初の男「ア~のぞきな」と言って後からの男に覗かせる

4コマ目:家の中には食事をするおばあさんの姿が。「八十九のおバアさんがたった一人で住んでるンだ、のぞかずにいられるか」


 この漫画を見たとき、僕は思わず、へーと唸りました。というのも、僕にも89歳で一人暮らしをしている祖母がいるからです。祖母の家は僕の住む家から近いので、会社勤めがテレワークに移行してから、僕は平日は祖母の家に出勤し、昼には妻が持たせてくれた料理を二人で食べています。でも、一人暮らしをしていることには変わりありません。

 巻末の注釈によると、高齢者の一人暮らしは、この漫画の掲載時期の昭和45(1970)年には62万人、昭和46年には70万人、昭和55年には88万人となり、平成27(2015)年には593万人になっているとのことです。この注釈を見て、僕はまた、今度はうーんと唸ってしまいました。

 『サザエさん』は1946年から1974年に書かれた新聞4コマ漫画という背景もあって、社会の変遷や社会的価値観の変化も数多く描かれているのですが、諧謔(ユーモア)と諷刺の鋭さに、しばしばハッとさせられます。

 気にかけて、会うこと自体が感染のリスクになるというのが、いまの感染症の厄介なところであり、もどかしいところであり、この2年、世界中の人がそれに悩んできたと思います。それでも、実際に会わなければ、触れなければできないこともあり、誰かが「覗き人」にならなければいけない場面もある。もともと単純ではなかった話に、感染症がさらなる複雑さを与えています。

 長谷川町子だったらいまをどう『サザエさん』に描いたのだろうと、半世紀近く前に連載が終わった漫画に、思いを馳せることがあります。どこにユーモアを込めるのだろう、と。否が応でも暗くなってしまう世の中に、なんとかユーモアをねじ込みたいと僕も思っています。